はじめての障害児教育・支援速修ブログ

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仕事を続けるために⑤「困った行動」(「行動障害」)へのアプロ-チ方法

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 本当に「問題」なのか、今一度考えてからアプロ-チについて考えます。

 

 よく、いわれているように何年か経験すると「困った行動」という時、本当に困っていたのは、子ども自身だとわかることがあります。 

 

 「困った行動」(「行動障害」)に対して、私たちが実践してきたアプロ-チ方法は次のとおりです。後で具体例を紹介します。

 

  名前(   )

 障害・行動の特徴(      )

 中心課題(発達)の段階(    )

  段階によって対応は、かわります。

 アプロ-チの手順

   1.現状(結果)~どんなことをどんな時に

   2.理由(原因)~子どもの気持ちを推し量る

   3.2へのとりくみ(仮説)

   4.仮説の検証方法~軽減されているのか、悪化し   

     ているのか、かわらないのか、判断できる指標   

     をきめておく

   5.結果

 

 以下、具体例です。

 自閉の子(高等部生・男子)のスク-ルバス「非常ベルへのこだわり」落ち着くまでの全記録です。どうぞ。

 

     ある時、

    なにげなく非常ベルを押した。

    予想どおり大さわぎになった。

    また、チャンスがあれば、実行したいと思った。

    実行した。

 

 新学期が始まり、しばらくたった頃です。スク-ルバスの中での指導を担当している介助員さんが、職員室の私たちの学年を尋ねてきました。

「実はB君のことなんですけど・・・・・・何とかしてください」

 私たちの学年のB君(高等部生)が、スク-ルバスの走行中にバスの非常ベルに固執し、危険な状態が続いているというのです。介助員さんの一瞬のスキをついて鳴らしてしまうので防ぎようがないとのことでした。いきなりの大きな音で、ほかの子も騒ぎだし、車内はパニック状態。その上、B君が乗っている路線は、交通量の多い国道を走っています。大きなバスを左によせて、B君をベルから引き離し、ほかの子が落ち着くまでバスを停車させるのは、大きな事故になりかねないとの訴えでした。

「運転手さんからもきつく言われています」

 そりゃ、そうですよね。非常ベルを鳴らしたまま走行していたら、バトカ-もついてきますね。

 

 本気になってその子の気持ちになって考える、みんなでいろんな視点から考える。私たちが編み出した方法は、鉛筆を持ってとことん考えることでした。ひとり一枚のカ-ドに「なぜ、彼はそんなことをするのか」、子どもの気持ちを推測して、2~3行の文章にするのです。文章は、「ぼくは・・」からはじまるようにそこだけが印刷されています。 

    

 鉛筆を持ってB君の気持ちを推し量りながら、考え続けます。 そして、みんなのカ-ドが集まりました。次のようにB 君の「気持ち」(推測)が形になりました。もちろん、ひとりでつくりあげてもOKですよ。なんせ、「人間は、手で考える」のですから。

     

こんなことをすれば、先生に叱られる。

そんなこと、ぼくは百も承知だ。

しかし、ぼくは叱られるのがそんなに嫌いじゃない。

だから「ダメッ」っていわれることなら、ほんとのところ

なんでもいい。

したくなる。

自分のしたことで大さわぎになるのが好きだ。

 

ある時、

なにげなく非常ベルを押した。

予想どおり大さわぎになった。

また、チャンスがあれば、実行したいと思った。

実行した。

思いどおりにいった。

 

それからとういうもの、ぼくは、非常ベルが気になり出した。

バスに乗ったとたん、すぐに気になるのだ。

やめよう、やめよう、どうせ、止められる。

叱られるのがオチだとわかっていても、ついつい

手がのびる。

 

そして叱られる。

けど、バスに乗るとどうしようもなく、ぼくの気持ちは

ベルにむいてしまう。

いっそのこと、あのベルがなくなれば、ぼくの気持ちは

す~と、ラクになるのだが・・・・・・・・・

 

 「えっ、ラクになる?」「ほんまか」「案外、そうかもしれない」

 こうして、私たちの仮説が決まりました。

 いっそ、非常ベルをなくせばいいのです。でも、そんなことしたら道交法違反で運転手が逮捕されますよね。どうしたものか。議論が続きました。早く結論を出さなければなりません。停車中に追突でもされたら大変です。多くの子がケガをするかもしれないのです。

 バスの非常ベルをなくすることはできない→非常ベル除去の逆バ-ジョン→自分では外せないシ-トベルト着用はどうか→しかし、事実上の拘束はB君の人権を侵害することにならないか→いやいや、チャイルドシ-トやチャイルドロックは、人権侵害ではなく子どもの命を守るためにある→実際、立ち上がっている時、追突されたら彼自身大ケガを負う可能性がある。

「彼はいつでも外すことを要求できるわけだから」「彼が嫌がったら再検討」

 B君の障害は、「自閉症」、発達の段階は「ことば獲得・拡大期」。けっきょく、嫌だったら自分で介助員さんに伝えることができることばを持っていることが決め手となって「やってみよう」という結論になったのです。その日のうちに、「いっそ、ベルがなくなったらぼくの気持ちはラクになる」・・・を忖度した仮説は、介助員さんと運転手さんに伝えられました。

 結果、知りたいですか~。知りたいですよね。

 はい、どうぞ!

 結論からいうと、彼の「困った行動」は全面解決、すなわち非常ベルへの固執はなくなったのです。以下、介助員さんからの報告です。

1.彼は自分から二重ロックのかかったシ-トベル席につく。

2.スキを伺っているようすもない。

3.介助員さんがロックを忘れていると自分からロックをかけるように要求する。

 すなわち、B君は、非常ベルが気になる状態から解放され、これで気持ちが「す~と、楽」になったのです。

 

 

  以上の経過をアプロ-チ表にまとめると、次のようになります。

 

名前(Bくん ) 高等部1年生     

 

障害また行動の特徴~自閉症の診断

中心課題(発達)の段階~「ことば獲得・拡大期」。ケンケンもできるので、運動領域は進んでいる。

 

1 .現状(結果)

  スク-ルバスの非常ベルへの固執。スク-ルバス乗車中にスキをみて立ち上がり、バスの非常ベルをならす。バス内がパニック状態になる。バスは緊急停車を余儀なくされ危険。

2.理由(原因)     

ぼくは、叱られるのがそんなに嫌いじゃない。   

ある時、なにげなく非常ベルを押した。予想どおり大さわぎになった。                 

また、チャンスがあれば、実行したいと思った。

 ぼくは、非常ベルが気になり出した。バスの乗ったとたん、すぐに気になるのだ.          やめよう、やめよう、どうせ、止められる。叱られるのがオチだ、とわかっていても、ついつい手がのびる。そして叱られる。けど、バスに乗るとどうしようもなく、ぼくの気持ちは、ベルにむいてしまう。いっそのこと、あのベルがなくなれば、ぼくの気持ちはす~と、ラクになるのだが・・・

 3.2へのとりくみ(仮説)

   バスの非常ベルをなくすることはできない→非常ベル除去の逆バ-ジョン→自分では外せないシ-トベルト着用はどうか→しかし、事実上の拘束はB君の人権を侵害することにならないか→チャイルドシ-トやチャイルドロックは、人権侵害ではなく子どもの命を守るためにある→実際、立ち上がっている時、追突されたら彼自身大ケガを負う可能性がある→嫌なら彼は外すようにことばで伝えることができる。

 仮説「自分では外せないシ-トベルトに変更してみる」

4.仮説の検証方法

   非常ベルを鳴らす→バス内がパニックとなった回数をカウント。

5.実践の結果

   非常ベルのトラブル、以後0回。  以下、バスの介助員さんからの報告。

1.彼は自分から二重ロックのかかったシ-トベル席につく。

2.スキを伺っているようすもない。

3.介助員がロックを忘れていると自分からロックをかけるように要求する。