はじめての障害児教育・支援速修ブログ

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仕事を続けるために⑥「~~計画」の提出はこれでOK!~中心課題の設定

  ここでは、忙しいあなたのために前述の5つの質問による発達検査から、学習活動の中心課題の設定ができるまでを一気にすすめていきます。これであなたは「~~計画」の提出をいつ求められも大丈夫です。

 

 その前に中心課題の設定方法に正当性、合理性があるか説明が必要ですよね。障害児の教育は、多くの人たちとの共同作業ですから課題設定までのプロセスにみんなが納得できる根拠がないと、課題そのものも共有することができません。

 私たちは、実践のなかで子どもたちから次のことを学びました。

 

1.音がつくれない子どもたち(段階表のことばの項目は「なし」)を対象にサイン言語の学習をはじめました。その時、どんどん獲得していくグル-プとなかなか獲得できないグル-プがいて、原因をさぐりました。そして次の結論にたどりつきました。サイン言語はことばをもたないすべての子どもたちに有効なのではなく、①一定の「言語理解」ができていながら、②「音声言語」が獲得されなかった子どもたちのコミュニケ-ション手段となり得る。また、「オ-ム返し」といわれている子どもたちのことばがコミュニケ-ション手段となるためにも、ことばの「理解」が前提でした。

 私たちは彼らがすでに知っていた「こと」「ことば」(サイン)で表現するための学習を組織したにすぎなかったことに実践の途中で気がついたのです。

 私たちが実践の対象とした子どもたちは、14才になってもコミュニケ-ション手段としてのことばを獲得できていなかった子どもたちでしたから、彼らは私たちと出会うはるか前から、話せないけど一語文の「理解」には到達していて、ここでたたずんでいたことを示していました。14年間も、です。したがって、発達段階の把握は段階表にある「~ができる」を指標にするのでなく、「何を理解しているのか」を指標にしないと、子どもが持っている可能性を引き出せないことがわかりました。

 

2.では、いったい子どもは何才頃にどんなことを理解しているのでしょうか。たくさんの研究者がいろんなことを観察して記録に残していますが、いちばん確かなことは、すでに何千、何万人という子どもの長期にわたる検査で明らかになっているビッグデ-タ。そうです。すでに標準化(市販)されている発達検査の項目です。すでに標準化されている発達検査の項目は、子どもから学べるデ-タバンクなのです。

 

 標準検査の中に「新版K式発達検査」(略称「K式検査」)というのがあります。Kは、京都の略。京都児童院(現在の京都市児童福祉センタ-)で開発されたビネ-式検査の改良版です。現在、多くの公的機関で活用されていますが、それには理由があって、発達年令0才からカバ-できるため知的障害児を理解するのに便利なのです。その中から段階の区切りとなる質的転換期年齢の初期に獲得される認識力(児童期は思考力)の測定項目を抜き出してメルクマ-ルとしました。認識とは、「物事をはっきりと理解」(金田一春彦他編・2017・学研現代新国語辞典)することです。可能な限り運動性、操作性が捨象され、子どもがすでに知っていること、理解していることを知るためです。

 「K式検査」は、ビネ-、ゲゼル、ピアジェなどの発達理論をもとに作成されており、世界の研究者たちが子どもの発達を見る視点として発見し、これまで何千、何万人という子どもたちに検査を実施してもなお修正されずに生き残っている項目です。なので、発達の質がかわる年令には、前の時期とはちがう新しい質への移行がぴったわかる項目が見事に配置されているのです。したがって、発達検査の項目によってその段階を支配している質の特徴がわかります。

 長い歴史を持ち、多くの公的期間が使用している検査の基準なら、誰もが納得できますよね。さて、簡易認識検査は、次のような内容でした。(過去ログから再掲載)質問だけでOK!この検査なら誰でもできます。

 

➊ 1.6才頃(幼児第1段階)

絵本を広げ「~は、どれ?」に対して「指さし」又は「ことば」で答えることがで  きたら合格

➋ 4才頃(幼児第2段階)

(1)もしも、あなたが学校(職場・園)にでかける時に雨がふっていたらあなたはどうしますか  

(2)もしも、あなたの家が、火事でもえているのをあなたが見つけたら、あなたはどうしますか 

(3)もしも、あなたがどこかへ行こうとして、バスに乗り遅れたらあなたはどうしますか

 ひとつでもできたら合格

 ❸ 6・7才頃幼児第3段階

「数を逆さまに数えます。20から1までを逆に数えてください。たとえば、23、22、21というように数えます。」「いいですか。では、20からどうぞ」

 1誤だけなら合格

➍9・10才頃-児童第1段階

「私がこれからどこか似ている2つの物の名前を言います。そのふたつの物がどう似ているか、私に言ってください。」 「舟と自動車はどう似ていますか」

(1)舟と自動車  

   正答例(以下同じ)①乗物 ②運転(操縦)する ③全体を作る主な材料

(2)鉄と銀  ①鉱物、金属 ②重量(比重) ③固さ

(3)茶碗と皿  ①食器、陶器 ②食べ物の容器

 ひとつでもできたら合格

❺12・13才頃-児童第2段階

「今から、どこか似ている物の名前を3ついいますから、その3つのどういうところがにているか教えてください」「蛇・牛・雀はどうにていますか」

(1)蛇・牛・雀 

 ①動物、生物 ② 陸上に住む ③血液を持つ ④頭や目がある ⑤呼吸をする ⑥動きまわる 

(2)本・先生・新聞 ①教育、知識、情報の源 ②教えてくれる

(3)ナイフ・鍵・針金 ①金属性 ②固いもの ③鉱物から作られている

(4)朝顔・芋・樹木 ①植物 ②葉や根がある

  ひとつでもできたら合格

 検査項目出典:監修島津峯眞編集者代表生澤雅夫(2003)「新版K式発達検査法」~発達検査の考え方と使い方~.出版:ナカニシヤ

 

3.子どもが理解できている世界がわかれば、その子に何が必要か、すなわち、その子の中心課題がすぐわかります。

検査項目 発達の節(質的転換期) 階層名    段階 学習活動期(中心課題)
➊の質問合格 1.6才頃(幼児第1段階)  次元 1次元ことばの世界 「ことば世界拡大期」
➋の質問合格 4才頃(幼児第2段階) 2次元想像の世界 「想像世界拡張期」
❸の質問合格 6・7才頃(幼児第3段階) 3次元中間系列の世界 「文字世界獲得期」

 次元の階層は、理解できる世界を1次元(イヌということばと庭の犬がつながる具体世界)、2次元(具体世界のほかに想像世界が加わる)、そして本当は並びつながり、グラデ-ションになっている現実社会(3次元)と、理解を広げていく期です。理解できる世界を1次元、2次元、3次元とひろげていくことから、京都大学の田中昌人(1932~2005)はこの年齢期を「次元」の階層と呼びました

 

 児童期からは、思考を深めていく時期です。児童期から始まる論理的思考は、その後の人生をを左右します。以後、事物、事象を思考し、分析しながら認識できる世界をひろげていくことになるからです。なので、現在の普通教育の教科学習も小学校3・4年生頃からは、論理的思考を展開する仕掛けになっています。ここは大きな転換期なので先の田中昌人は、新しい階層(「変換」の階層)の始まりとしました。

検査項目 発達の節(質的転換期) 階層名    段階 学習活動期(中心課題)
❹の質問合格 6・7才頃(幼児第3段階)  変換 1次変換論理的思考の世界 「論理的思考学習期」  *小学校3・4年~小5までの教科学習の内容
❺の質問合格 12・13才頃(児童第2段階) 2次変換概念形成の世界 「将来必要となる知識の吸収期」          *水準~小6年~中3までの教科の内容及び生徒会・部活動など教科外活動による学び

 さて、これであなたは、「どの子に何を」という時の「どの子に」(その子の段階)がわかるようになりました。そして、段階がわかれば、その子の学習活動の中心課題(「何を」)も上の表で即座にわかるようになりますよね。実は、あなたが図書館で調べてきた普通教育の一覧(過去ログ参照)は、どの活動、どの教材も各段階の中心課題を育てるものになっているのです。今、していることとが、A君、Bさんの吸収可能なものになっているかどうかもこの表でチエックできます。コピ-してお使いください。

 

 知的障害児の学校、学級や放課後デイの子どもちは、ほとんどがこの5つの節の前で立ち止まり、節を乗り越えようと挑戦している子どもたちです。次へ次へと難しい課題を迫るのでなく、今できる中心課題の活動を多様に展開することが、次の節を乗り越える確かな力です。段階がわかったら自信をもって活動計画の中心課題として書き込むことができます。